朝、目覚ましより早く目が覚める。
まだ街が寝ている時間に、車を走らせます。
目的地は山の奥の小さな渓流。
聞こえてくるのは水の音と鳥の声だけ。
ロッドを手に持つと、不思議と肩の力が抜けていくのです。
正直なところ、魚が釣れるかどうかは二の次、
フライフィッシングは、結果よりも過程に価値がある数少ない遊びだと思います。
キャストを繰り返しているうちに、頭の中がゆっくりと空になり、
時計を見ることを忘れる。スマホも圏外。
ただ、川の音と自分の呼吸だけが、そこに在ります。
魚はそう簡単に騙されてはくれません。
流れの筋を読み、自分のフライを「本物らしく」見せる。
それでも9割は空振りです。
でも、不思議と苛立つ気持ちは湧いてきません。
むしろ、空振りした時間が、なんだか贅沢に思えてくるのです。
魚がライズする瞬間を待つ静寂の中に、普段の生活では味わえない深い充足があるからだと感じます。
もし最近、時間が早く過ぎていくと感じている方がいましたら、
一度、朝早く起きて川へ行ってみてはいかがでしょう。
帰り道、クーラーボックスはほぼ空、でも心は満タン。
魚は釣れなくてもきっと静かな豊かさを持ち帰れるはずです。
僕もまた同じ川で、ゆっくりと時間を無駄にしに行きます。
そんな朝が、一番の贅沢な時間なのです。
道具を大切にするのも、この釣りの流儀だと思います。
長年連れ添ったロッドも、古いリールも、傷や擦り跡が刻まれています。
道具を大事にすることは、時間を大事にすることイコールなのだと思います。
相棒たちを丁寧に手入れして、また次の川へ連れていく。
それだけで十分に幸せなのです。
もし、あなたが
「もう少し軽いロッドにしたい」「新しい釣りに挑戦したい」と思ったら、
ぜひ一度、大切にしてきた道具を次の人に託してみてください。
そしてその人は、また新しい時間をそのロッドに重ねていく。
そうやって、ひとつの道具が何人もの釣り人の物語を繋いでいく。
手放すのは少し寂しいけれど、きっと誰かの朝を豊かにしてくれるはずです。
僕たちは、そんな気持ちを受け継ぐお手伝いをしています。
あなたの相棒が、次の誰かの「一番の贅沢な時間」を作るために。