川辺でリールを巻く音が、少し湿った空気に溶けていく。
カチ、カチ、カチ、、、、、、、
その規則正しいクリック音を聞くたび、僕は遠いイングランドの工房に思いを馳せます。
Hardy Brothersは、1872年にスコットランドで生まれました。
フライフィッシング界で最も古い名門の一つです。
創業者のウィリアム・ハーディは、もともと銃職人でした。
銃のトリガーと」同じくらい繊細な「引き味」をリールに求めたのが始まりだと言われています。
代表モデルといえば、やはり「Perfect(パーフェクト)」でしょう。
1891年に誕生して以来、基本設計はほとんど変わっていません。
太いドラム、大きなアーバー、露出したフレーム。
見た目は無骨で、現代のカーボンリールに比べると明らかに重い。
でも、手にするとわかる「不思議な安心感」があります。
英国のモノづくりは「新しさ」より「正しさ」を選びます。
流行を追わず、必要以上に軽くせず、壊れにくい形を貫く。
Perfectリールのチェックシステム(逆転防止)は、今見ても驚くほどシンプルで頑丈です。
真鍮のギアが少しづつ噛み合い、年月とともに滑らかになっていく。
使い込むほどに「自分の音」になっていくのです。
工房では今でも、熟練の職人さんが一台ずつ手で組み立て、
最後に自分のイニシャルを刻んで出荷します。
古いPerfectには「F.W.」「S.E.」といった刻印が残っていて、
誰が作ったのかがわかる。それは、作り手が自分の仕事に責任を持つ、
英国らしい静かな誇りの現れでしょう。
軽快に巻けるリールはたくさんありますが、
「長い時間をともにする相棒」になれるリールは、そう多くはありません。
「道具は使い捨てではなく、育てていくものだ」と思えるなら、
一度、Hardyリールを手に取ってみてください。
そこには、英国の職人たちが150年間守り続けた、
控えめで、誠実で、頑丈な哲学が静かに息づいています。